Faculty of Humanities and Social Sciences, CUC
災害リスクと 観光危機管理の意義について
三宅島のフィールドワーク中(2023年12月2日23時37分頃)に、フィリピン付近を震源とするマグニチュード7.7(速報値)の地震が起きた。真夜中の島内放送に学生たちにも緊張が走った。翌3日の4時58分に、三宅島阿古では0.1mの津波を記録した。
いま、災害が多発している。この三宅島フィールドワークの3週間後に能登半島を旅した。のと里山空港から入り、輪島で二泊(12月23・24日泊)、金沢で一泊、そして西へという旅であった。この一週間後の1月1日に能登半島地震が起きた。輪島は甚大な被害を受け、多くの建物が倒壊したほか、大規模な火災も発生した。普段、この世界で不幸なひとなど山ほどいるのだとうそぶいていても、出会った旅先のひとの顔が思い浮かぶたびに凍り付く。
『北國新聞』の記事「千枚田ズタズタ無残 割れた国道249号歩く 輪島、交通阻み支援届かず」(2024/1/5)では、「能登半島を象徴する観光地の一つである「白米(しろよね)千枚田」に着いた。通行止めで車では来られないはずなのに、道の駅「千枚田ポケットパーク」に、なぜか多くの車が止まっている。元日に千枚田観光に訪れた人たち約70人が土砂崩れのため帰れなくなり、道の駅で車中泊を続けているのだ。」と報告している。
災害リスクの高まっているこの世界において、備えることは大切なことである。高齢者や障がい者、年少者はもちろんのこと、土地勘のない観光客もまた「災害弱者」かつ「移動弱者」である。この2月、沖縄県石垣市のユーグレナモールを歩いたときに、観光客用に設置してある「石垣市観光防災案内図」に気づいた。日本語と英語、繁体字・簡体字表記の、避難場所一覧や津波一時避難ビル施設一覧、津波最大浸水深、AED設置場所、避難経路などを紹介している。いま、一部の自治体では、住民の生命や財産を守ることのみならず、観光客の命をいかに守るのかという議論をしている。ただ、現在のところ、観光危機管理計画を策定している自治体は限られており、観光庁のプレスリリース(2023年3月8日時点)によると、北海道小樽市、秋田県、岐阜県高山市、大分県由布市、沖縄県、沖縄県内の自治体(那覇市、沖縄市、糸満市、南城市、石垣市)の合計10か所に留まる。
観光客に災害対応について周知することは、観光地としてはある種のジレンマを抱えることになる。観光地としてのイメージの低下につながる可能性があるからである。とはいえ、この災害が多発する観光の世紀において被災時の観光客の位置づけについて検討することは迎える側としての責務であり、また一方で、観光客側は平常時より迎える側の観光危機管理にかかるコストに対するいくらかの支払いと対策の把握の義務があるといえる。
