Faculty of Humanities and Social Sciences, CUC
石積みをしただけなのに
文責:矢口 泰平(5期生)
期待以上の出会いがここに
私たちのゼミでは、沖縄県竹富島にフィールドワークに行きました。半年前に藤井先生の観光社会学を受けていたので、竹富島がどんな場所かは少し知っていて、「いつか行ってみたいな」と思っていました。
まさか実際に行けるとは思っていなかったので、行けることが決まったときは内心めちゃくちゃワクワクしていました。青い海、赤瓦の屋根、ゆったり流れる時間など思い描いていた景色が本当に目の前に広がるのかと想像するだけで胸が高鳴りました。
そして、ついに竹富島へ。観光や食事だけでなく、地域の方と関わる活動も経験しました。今回書くのは、その中でも特に印象深かったお墓の“そうじ”体験についてです。

いざ、お墓の“そうじ“へ
私たちが行った活動は、安里屋クヤマのお墓です。「お墓のそうじ」と聞いて、最初は枝や雑草を片付ける程度だと思っていました。友達と笑いながら「雑草抜きでもやるのかな」と話していたくらいです。
でも、実際に現地に着くと、そう簡単な作業ではないことがすぐにわかりました。なんと“そうじ”の正体は、石を積んでお墓の周りを整える作業、いわば石積みの修行でした。これは、安里屋のお店に赤瓦のお土産販売スペースを貸してもらう代わりに行う活動で、地域への感謝の意味も込められています。
最初は「え、掃除じゃなくて石積み…?」と戸惑いましたが、とにかくやってみるしかありませんでした。肝心の藤井先生は「言ってなかったけ?」と言っていました。

思った以上に“石積み”
1日目は班に分かれて作業。私はお墓のそうじ担当になりました。現地で藤井先生が「これから石積みを作るぞ! とにかく手を動かすことが大事」と話してくれました。
手探りで石を積み始める私たち。大きな岩、小さな石、とりあえず積めばいいだろうと思っていました。しかし、30分も経たないうちに、ベテランの花城さんが現れ、「こんなんじゃダメだ、すぐ崩れる、やり直せ」と厳しい指摘。私たちの30分の努力はあっという間に崩され、しばし呆然と立ち尽くしました。その後、花城さんが積み方を教えてくれました。大事なのは、石の向きと中に詰める小石の使い方。大きな岩は尖っていない部分を外側に、内側は小石でぎゅっと埋める。空洞ができても、小石を隙間に置いて安定させる。聞いてみれば当たり前のことかもしれませんが、やってみるとなかなか難しい。
直射日光に照らされ、地面の熱を感じながら汗をぽたぽた垂らして作業するうちに、少しずつ形になっていくのがわかりました。時間にして約3時間。1日目は半ば試行錯誤で終わりましたが、学ぶことがとても多かったです。
本日も修繕しましょう
2日目はゼミ全員で作業。1日目の経験があるので、石の積み方も手順もスムーズになっていた。作業中には笑い声も増え、みんなで「ここはどう積む?」と相談しながら進めました。もちろん、それ以外にも色々聞こえてきました。炎天下で汗をかきつつも、積み上がる石を見ると自然にテンションが上がります。完成しお墓のそうじが終わったと思った瞬間の達成感は格別でした。3時間ほどでついに石積み完成!
作業後、地域の方が「ありがとう」と笑顔で声をかけてくれたとき、とても嬉しかったです。その後はみんなで海へ。飛び込んだ瞬間、汗と熱で疲れ切った体のことなど忘れず心も体もリフレッシュしました。
“そうじ”のつもりが、実は石積みの修行だった竹富島での2日間。単に石を積むだけと思っていたら大間違いで、少しの工夫と丁寧さがこんなに大切だとは思いませんでした。汗をかき、失敗して、教わって、そして達成感を味わう。この一連の体験は、頭で学ぶだけでは得られない貴重な学びでした。竹富島の青い海や赤瓦、そして温かい人々との触れ合いと共に、忘れられない思い出になりました。


お墓の修繕をしただけなのに
話は1日目に戻ります。くたくたの体で宿に戻る際、私たちは「この石積み、きれいすぎない?」「こう見ると俺らのまだまだだね」と語り合いました。何気ない会話でしたが、後ろで藤井先生が「その気づき凄くいいですね」と感心してくれました。
正直、竹富島にある石積みはただそこにあるだけだと思っていました。恐らく、何も考えずに観光をしていたからだと思う。だが、自分たちで体験し、苦労して作業することで、その美しさや奥深さを実感できました。石積み1つにも工夫や技術が詰まっていて、ただ見るだけでは分からない価値があることに気づいたのです。
後日談ですが、安里屋クヤマのお墓で葬式が行われたとき、私たちの積んだ石は崩れることなく残っていました。地域の方々のためにも役に立てたことを知り、嬉しさが込み上げました。
観光とは、写真だけでは伝わらない体験や、現地で感じる空気や音、人の温かさまで含めて楽しむものだと改めて感じました。それこそが、体験を通して初めて手に入れた見え方だった。単なる観光地が特別な場所に変わる、それを実感できた瞬間でした。
離島観光の在り方
~ 一緒にお墓の修繕しませんか ~
これまでの竹富島での体験を通して、観光客と島民が互いにメリットを得られる「Win-Win」の関係が、離島観光において重要だと言われる理由を、身をもって考えることになった。竹富島を含む多くの離島では、人口減少や高齢化が進み、地域の維持や伝統文化の継承が課題となっている。その解決には、島の外から来る人の力が必要とされる一方で、観光客が来るだけの存在になれば、かえって地域の負担になってしまう危うさもある。
今回体験したお墓の石積み修繕は、そうした課題の中で行われている体験型観光の一例だった。観光客が単なる見学者ではなく、島の暮らしや文化に実際に関わり、汗をかきながら学ぶ。島民にとっては人手不足の中で進められなかった作業が助けられ、私たちにとっては、観光地を「消費する側」から一歩踏み出す経験になった。
ただ正直に言えば、地域貢献という言葉の裏で、自分が達成感や充実感を得て満足していただけではないか、という気持ちも残っている。体験型観光は、やり方を間違えれば観光客の自己満足に変わってしまう可能性もある。しかし今回の石積みは、地域の方に必要とされ、やり方を教わり、実際の葬儀でも使われたと聞いたとき、少なくとも「やらされる体験」ではなかったのだと感じた。
石積みを通して気づいたのは、観光とは必ずしも見ることや楽しむことだけではなく、地域とどのような関係を結ぶかという問題でもあるということだ。観光客の主体的な関わりと、島民のニーズが重なったとき、観光は消費から関係へと姿を変える。その境界線がどこにあるのかを考え続けること自体が、これからの離島観光にとって重要なのではないだろうか。
竹富島フィールドワークでの成長
竹富島でのフィールドワークから約1か月後、私は北海道・函館へ旅行に行きました。目的は海鮮やご当地グルメを楽しむことでしたが、ふとしたときに自分の中で変化が起きていることに気づきました。
函館の有名な観光地、五稜郭タワーに登ったときのことです。展望台には五稜郭の歴史や建設の経緯を紹介する展示がありました。私は普段なら流し読みしてしまうような資料を、じっくりと読んでみました。「なぜ五稜郭がこの場所に建てられたのか」「どのような経緯で作られたのか」「誰が関わったのか」。これらを知ることで、ただ景色を見るだけの観光では得られない学びがありました。
その瞬間、ハッとしました。竹富島に行く前の私なら景色を眺め、美味しいものを食べて帰るだけで、こうして歴史や背景に目を向けることはなかったはずです。竹富島でのフィールドワークを通じて、「なぜ?」と疑問を持ち、それを探求する楽しさを知ったことが、確実に自分の観光の視点を変えていたのです。
この体験から私は竹富島でのフィールドワークの価値を改めて実感しました。観光の面白さは、ただ見る・食べるだけでなく、「なぜこの場所があるのか」「どのように作られたのか」「誰の努力によって支えられているのか」と疑問を持ちそれを自分なりに探求することにあると気づきました。だが、五稜郭を見ながら、もしここで石積みをさせられたら、私は観光客として嫌だと思うだろう。では、竹富島の石積みはなぜ嫌じゃなかったのか。その違いを考え続けたい。
今後は観光する際に、この「なぜ?」を忘れずに、より深く学び、楽しむ姿勢を大切にしたいと思います。そして、単なる観光が、自分にとって価値ある体験に変わるように心がけていきたいです。
「石積みをしただけなのに」と思っていた体験が、観光そのものの見方をここまで変えるとは、当時は想像もしていなかった。
